「もう一度食べたい」を可能にした胃瘻患者さんへのケア支援


医療法人社団 はらだ病院
佐藤清美 佐藤康子 谷野乃里子 梅村典子 米澤信枝 国木弥枝 
福久礼子 富永 環  藤田雄二  瀧川拓磨 稲場一浩 山崎裕之

 ■ はじめに

近年、経口摂取不能な患者に対して経鼻胃管に変わり 胃瘻による栄養管理が広く行われるようになった。 当院の療養病棟でも41床のうち現在20名が胃瘻患者である。

さらに当院では、胃瘻からの人工栄養を液状から半固形化することにより 誤嚥性肺炎などの合併症が減り、良好な全身状態を保つようになった。
今回、私達は、胃瘻(以下PEGとする)造設後のQOL改善の効果の一つとして 「もう一度食べたい」という本人、家族の意思を尊重し、嚥下訓練を実施、 ケア支援を継続することにより、 再び経口摂取が可能になった症例について検討したので報告する。


 ■T.研究目的

本人、家族の「もう一度食べたい」という意思を尊重し、嚥下訓練などケア支援を実施、 継続することにより、再び経口摂取が可能になった症例について検討する。


 ■U.研究方法

【1】
研究期間:平成18年10月〜平成20年12月
【2】
研究対象:期間中のPEG患者34名中、嚥下訓練を実施した患者15名
【3】
倫理的配慮:研究にあたり主旨、方法を患者に説明したが、 理解困難な場合は家族に説明し同意を得た。
【4】
当院の嚥下訓練プログラム
当院では、表に示すように、基本プログラムを作成し、 マッサージ、体幹訓練、咳そう訓練、発声訓練、 舌の運動訓練の5つの項目を設けて嚥下訓練を行った。
これらのうち、その個人の状況に応じてメニューを選択して、 毎食前と1日1回のリハビリの時間に行った。
基本プログラムを作成することにより、 専門職ではないスタッフでもおこなうことが可能となり、 それぞれの訓練法については、各スタッフ間で研修した。



 ■W.結果

【1】 年齢、男女比
平均年齢は84.2歳、80歳代が最も多く、男女比は約1:2であった。

【2】 基礎疾患・身体障害・介護度など
基礎疾患では脳血管障害が最も多く、パーキンソン症候群、 正常圧水頭症などが見られた。 身体障害認定では、15人中11人が1級であり、要介護度はすべての人が5であった。
PEGを造設したのは自院例5名、他院5施設10名であった

【3】 摂食状況
摂食状況は、PEG造設後嚥下訓練を実施した15名中、 再び三食摂取できるようになったのは10名66.6%、 1食もしくはゼリー・プリンのみはそれぞれ2名だった。
15名中1名を除き14名、93.3%のかたが再び食事ができるようになった。
三食摂取できるようになった人以外の方も、現在リハビリが継続されている。

【4】 摂食に至るまでの期間
リハビリを開始して、再び摂取できるようになったまでの期間は、 6ヶ月以内が10名、6〜12ヶ月までが3名、12ヶ月以上が1名で、 平均では146.5日、最大で417日間であった。
この間、肺炎など重篤な合併症はなかった。

【5】 症例
再摂取可能となり、PEGを抜去することができた症例を示す。
症例は83歳女性、基礎疾患は脳梗塞後遺症である。

現病歴;平成19年4月に脳梗塞を発症し約2ヶ月間入院、その後自宅療養をしていた。 同年7月に自宅で転倒、腰部打撲で近医入院となったが、 その頃より嚥下が困難となり誤嚥性肺炎を繰り返すようになった。
そのため、9月に他院にてPEGを造設し、10月療療養目的で当院紹介され入院となった。
現症;身長146cm、体重34.7s、BMI16.3で、ADLは全面介助である。
【 臨床経過 】
当院入院後、口腔ケア、口腔内機能改善のための訓練を開始し、 14日目に各スタッフによる会議を開いた。
そこで、今後、経口摂取可能と判断し、17日目にはプリン・ゼリーを開始、 嚥下に問題がないことを確認し、24日目には1日1食全粥ミキサー食を開始した。 その後摂取量、具合を確認しながら食事をアップし、 37日目には1日三食摂取することができるようになった。
その後、PEGに対する違和感を訴えたため、  169日目に抜去し、その後グループホームへ転所し、故郷に戻ることができた。



 ■W.考察

経口摂取ができなくなった患者さんにPEGを造設し、人工栄養が行われている。 一旦、PEGが造設された患者さんは、従来、再び食事をとることはあきらめられていた。
PEGからの人工栄養が液状栄養の場合、逆流による誤嚥性呼吸器感染や、 下痢、また、瘻口からの漏出などの合併症があり、栄養、体力が思うように回復しなかった。

しかし、人工栄養を半固形化することによって、これらの合併症が著明に減り、 栄養、体力が回復するようになった。 また、栄養注入にかかる時間も減少、リハビリテーションや座る時間も増えた。
また、消化管の運動も良くなり、これらのことが総合して、 患者さん本人の体力、意欲が改善して、患者さんが再び食べたいという意欲が生まれた。

当院には、嚥下訓練、経口摂取の専門家がいないが、何回か研修も受け、 文献を参考にして、嚥下訓練のプログラムを作成した。
看護師、介護福祉士、リハビリスタッフ、栄養士、医師の職種がカンファレンスに参加して、 患者さん個々の状況を検討、それぞれに合わせたプログラムを作成し、 連携、協力して嚥下訓練を行うことが重要である。

飲食物開始が可能と判断するためには、病状や意識レベルの改善、 ある一定時間安定した座位をとれること、咳払いや痰の喀出、摂食・嚥下機能の改善、 歯・口腔清潔・機能の改善がすべての段階において必要である。
1日1回の食事が開始になった時点からは、 嚥下訓練は毎食前に行うことが効果的であると考えられる。

嚥下訓練を行った15名中14名93.3%の方で、再び食事を楽しむことができた。 PEG患者さん全体からみても41.2%の方で、食事が可能となった。

このことから、今までは、最後の手段として施行されたPEGは、けっして、最後の手段ではなく、 栄養状態、体力を回復し再び食べるための治療法と考えても良いだろう。

一方、PEG造設の時期が早かったのではないか、すなわち、 嚥下障害に陥ったときに十分に嚥下訓練をおこなわれたのだろうかという意見にも 耳を傾ける必要もあるだろう。
いずれにせよ、PEGがつくられたからといって、食事摂取をあきらめることなく、 状態によっては、食事ができる可能性がある。

入院生活での楽しみが少ないなか、患者さんは「もう一度食べたい」という希望を持ち、 また、家族も「食べてもらいたい」と願い、 それを叶えることは、療養生活に彩りをそえることとなった。

人間は回復する力を持ち備えている、その健康回復力をより促進していくためにも、 私達は支援することにより人間としての欲求を満たすことが出来る。
嚥下訓練患者さんの数は多い。
人手はかかるし、問題は多いが、一つひとつ解決して、さらに患者さん、 家族の願いを叶える支援をしていきたい。



 ■X.結論

【1】
PEGが造設された患者さんでも経口摂取が可能となる人がおり、 再度食事を楽しむことができた。
【2】
胃瘻経管栄養は最後の手段ではなく、経口摂取を可能とするための治療法でもある。
【3】
経管栄養から経口摂取を段階的にステップアップさせていくためには、 摂食・嚥下機能だけではなく、歯・口腔、呼吸、姿勢、栄養方法、 食べ物の選択を個々の状況に応じて検討する必要がある。
【4】
専門職がいない中でも、関連する職種の連携と協力により嚥下訓練を行い、食事が可能となる。
【5】
誤嚥性肺炎の危険があると思われる患者さんに食べさせるのは勇気のいる仕事であるが、 再び食べたときの患者さんの笑顔は忘れられない。



 参考文献

(1) 藤谷順子 : エキスパートナース 2003年7月号〜これならできそう嚥下リハ(今日からはじめる)
(2) 藤島一郎 : 口から食べる(第3版) 中央法規
(3) 小山珠美 : 経口摂取標準化ガイド 日総研
(4) )鎌倉やよい : 嚥下障害ナーシング 医学書院