ASDA(旭川スポーツ歯学会)資料2
2.北海道歯科医師会通信2004年9月投稿記事
中山武司朗

2.北海道歯科医師会通信2004年9月投稿記事
スポーツ歯学研修会(ADSA)
旭川スボーツ歯学研修会 北海道歯科医師会通信2004年9月号
旭川スポーツ歯学研修会(ASDA)7月3日より
 スポーツはほんの一瞬で外傷・トラブルが起きるのが常ですが,この対策や予防知識がなく現場に立ってトレーニングを管理するのはいかがなものでしょうか。スポーツに参加するにも快適・安全・安心が求められている時代に,もし我々が多少の「医学的応急・緊急対策」も持っていないならスポーツ社会での評価は存在すら危ういものとなります。スポーツの現場でルールも知らなくて「マウスガード(MG)は予防です。安全を作ります。パフォーマンスが出せます」とは言えません。少なくとも心肺蘇生法とか応急処置とか歯科の分野としても食育とその育成に向かった咀囎機能の指導により,さらなるフィジカルを作り咬筋や頸椎の筋肉に力を与え,しかも口呼吸によるトラブルを指導し,噛み合わせにより動体視力や重心動揺のコントロールの大切さを少しでもアスリートに伝えるためには,我々がスポーツの現場に行き見ることをしないと,MGの価値を伝えられません。そのために研修会は今年のテーマとして外傷の研修をシリーズとして行っています。前回は「脳についての外傷」を行いました。今回は「口腔と顔面の外傷」について池畑正宏日赤口腔外科歯科部長を講師にお迎えし,旭川歯科医師会の全面的なご支援のもと,道北口腔保健センターを会場とした研修会を行うことができました。

 当日は多くの会員や技工士・衛生士さんの出席のもと約1時間ものオーバータイムとなりました。我々に関連する歯牙の脱臼について「再植は可能だが土や泥が付着した歯牙には嫌気性グラム陽性菌が多く付着しています。また口唇や顔面の挫滅創なども最大限のデブリドマンを行い,生理食塩水にて洗っても,破傷風というとんでもない病気になることがあるので,必ず医科に再植状況を伝えトキソイド0.5mの筋注等の処置をお願いすることにより患者とのトラブル(破傷風という)を回避するには大変重要である」と言われていました。脱臼歯牙の再植にはくれぐれもご注意下さい。また外傷による顎関節のトラブルは回復処置が困難とのことで,MGの重要性が分かりました。コンタクトスポーツ(ボクシング等々)者では下顎埋伏智歯は早めに抜くことが下顎隅角部骨折のトラブル回避となるようなのでMG制作時には,必ずパノラマを撮影しておくことが必要ではと思います。スポーツにおける安全管理に対し,損害賠償の訴訟も出て来ていますので注意すべき問題だと思います。

その他交通傷害での顔面外傷は大変迫力のあるもので,モータースポーツでは既にMGの普及活動が2000年から始まっています。また身近なアイスホッケーは「第227条マウスガード」があります。このルールは2003年より適用となっております。U20カテゴリーの選手はオーダーメイドのマウスガード使用となっております。
 次回の外傷シリーズは10月16日「外傷等で起こる全身の対策」として心室細動の話も出るかと思います。ASDAは日本歯科医師会生涯研修事業認定研修会となっております。
(中山武司朗記)
 


ASDA(旭川スポーツ歯学会)資料1

1.北海道経済2003年6〜11月投稿記事
中港誠幸

1.北海道経済2003年6〜11月投稿記事
スポーツと歯
スボーツ歯学「最近の動向」 北海道経済2003年6月号
 ”歯をくいしばる”とは、無念、苦痛、困難などを精神的に耐えるとか、頑張る様子を表現しています。 一方身体的には、世界の青木功さん(ゴルフ)や伊達公子さん(テニス)がインパクトの瞬間、しっかり食いしばっている様子をテレビの画面や報道写真でよく目にします。
 その噛みしめや食いしばりが出来なくなったらどうなってしまうのか、興味のあるところです。
 フランスのワールドカップで城ざん(サッカー)がガムを噛んでいたことでひんしゆくを買いました。野球でも打者はよくガムや噛みタバコを噛んでいます。以前ジャイアンツにいたガルベス選手は舌を出しながら投げており、噛まないように努めているように見えます。
 王さん(野球)は打つ瞬間、咬筋の輪郭がくっきり浮き出る程に噛みしめていたように思います。タイガーウッズ選手(ゴルフ)はインパクトの瞬間、舌を介在させるようトレーナーに指導を受けています。噛んだり、逆に噛まないようにすることが競技のパフォーマンスに何かよい効果をもたらすものなのでしょうか?
 あるボクシングジムのコーチが”難しいテクニックを教えるときには、選手にガムを噛ませて青てた”といいます。
 距離を、速さを、時間を、正確さを競う、そのための姿勢、筋力の発現と口腔機能とにはどのような関連があるのか。また、今日わが国でも自らの体力増進のため、あるいは余暇を楽しむためスポーツに参加する人も多くなっています。
 より安全に、より楽しく参加できるようスポーツ外傷と処置、その安全対策、マウスガードについても、次号から5回に分けて、ここで紹介させていただくことにします。
<1>スボーツ外傷 北海道経済2003年7月号
 近年、競技スポーッのみならず、子供から高齢者に至るまで健康の維持・増推を目的としたスポーツヘの参加者は増加の一途をたどっています。
 比例して競技中のスポーッ外傷も増えており、スポーツ選手にとって最悪の場合、選手生命に影響を及ぼすことにもなりかねません。コンタクトスポーツで顔面や頭部に外傷を受けた場合、その場で戦意喪失を起こすばかりでなく、再び同じよう場面に遭遇すると、潜在的な記憶によってそれを回避しようとするカが働き、一瞬の隙をつかれることにると言われています。
 また、歯科医療の進歩とともにカリエス(むし歯)は抑制されつつあるのに対しで、スポーツによって歯を失うことは非常に痛ましいことです。
 我が国ではアイスホッケーやラグビーなどにおいて(大和魂の名残でしょうか)競技中に歯を折ることを戦歴の勲章としていた時代があったようです。欧米ではあり得ないことで、西部劇の決まり文句に〃おまえの歯をへし折ってやる〃とあるように、歯を失うことはそれだけ屈辱のようです。
 昨年、釧路市を本拠地とする日本製紙クレインズ(アイスホッケー)の選手を対象にアンケート調査をしたところ、その70%に口腔内裂傷や歯の脱落、下顎骨骨折などを経験していました。しかしながら、防具としてのフェイスガードやマウスガードを装着している選手はわずかでした。
 また頭頚部領域の外傷として脳震盪もあげられます。ボクシングの〃Punch Drunk Syndrome〃はノックアウト、すなわち脳震盪を操り返すことによる脳損傷といわれ、ラグビーなどのフィールドスポーツでは、たとえ軽い脳震盪だとしても繰り返すことにより脳が萎縮し、様々な障害をきたすといわれています。
 以前、フィールドでダウンした選手に”魔法のヤカン”と称して頭から水を浴ぴせ、プレーを続行させ
ていた光景を見ましたが、非常に危険な行為であったことになります。
<2>マウスガードについて 北海道経済2003年8月号
 マウスガードは”mouth (口)”を”guard”するものですから第一の目的はケガの予防にあります。1913年頃イギリスのボクシング選手が口腔内のケガを防ぐために綿やゴムを口の中に介在させたのが最初と言われています。マウスガードは装着時のクレンチング(噛みしめ)により頚部周囲筋の筋清動量が上がり、損傷を軽滅ざせるという報告があるほか、装着による安心感から、よりエキサイティングなプレーヘと結び付くことになります。
 一般にはマウスビース、マウスプロテクター、ガムシールドなどという名称で呼ばれており、専門用語としては欧米諸園においてもまだ統一されていませんが、学会等ではマウスガードが多用される傾向にあります。
 現在、日本で装着が完全義務化になっている競技はボクシング、キックボクシング、アメリカンフットボーのみであり、流派や連盟によって一部義務化になっている競技はラクロス、空手、インラインホッケー、ラグビーです。しかしながらサッカーをはじめ柔道やアイスホッケーなど動的スポーツのほとんどはコンタクトスポーツとして、なんらかの接触ブレーがあると考えられます。
 ラグビーの盛んなオーストラリアでは子供の頃から装着が義務付けられており、仮に忘れてくると、その不安から逆に子供達が試合に出たがらないほどです。
 マウスガードの購入手段はスポーツ用晶店などで市販されている既製のもの(ストックタイブ、マウスフォームドタイブ)と歯科医院で製作するもの(カスタムメイドタイプ)の大きく2つに分けられます。市販のものは後者に比べると適合(装着感)が悪いために呼吸障害や吐き気を訴える選手が多く、結局使わなくなる傾向にあります。またケガの予防効呆にも違いが出てくることは言うまでもありません。
 第2の目的には、このマウスガードがスポーツパフォーマンス(競技能力)の向上として期待されていま
す。次号より説明させていただきます。
<3>マウスガードの効果 北海道経済2003年9月号
 スポーッと歯科に間する文献を検素すると1964年アメリカのstengerらがアメリカンフットボールの選手にマウスガードを入れたところ脳震盪を起こす症例が減ったことを米国歯科医師会雑誌で論文として発表したのが最初のようです。その後、欧米をはじめ日本でも研究がすすめられ、最近ではマウスガードがスポーツパフォーマンス(競技能力)の向上に期待されるようになりました。
 オリンピックをはじめ各種スポーツにおいてドーピング検査が煩雑になり、多額の費用をかけてシューズやユニフォームが改良されるなど、世界水準になるためには身体の特殊な開発が必要となっていま
す。そんななかがぜん口腔内が注目されるようになり、噛みしめることと運動機能について心肺機能や筋活動などの生理的分野から研究がすすめられています。
 ヒトの直立姿勢は、足底の狭い支持面に比べて重心の位置が高く、重い頭蓋が脊柱の最上部に位置しているため物理的に不安定な状態です。その身体の揺らぎの情報を端的に表現できるものとして重心動揺があります。歯の欠損やムシ歯などで噛み合わせの不調和が生じると、アゴの編位あるいは咀時筋(噛む筋肉)に緊張が起こり、身体他部の筋群とのバランスが崩れ、重心動揺移動距離が大きくなります。
 このような者に対してマウスガードやスプリントなどの噛み合わせを安定させる装置装着により重心動揺が減少することが実証されています。すなわちスポーッ選手にとって非常に重要な平衡感覚(バランス)に寄与することが十分に考えられます。
 このことからマウスガードは静的スポーッ(射撃、弓道、アーチェリー、ゴルフのパットなど)にもその的中率に効果が期待されます。
 バランスの悪い選手は、ある一定のレベルからそれ以上は向上しないと言われており、アメリカではオリンピック選考の際、似通った成績を持つ複数の選手がいる場合には、重心動揺のより少ない方を代表に選ぶそうです。
<4>マウスガードの郊果 北海道経済2003年10月号
 噛みしめ(くいしばり)とスボーツパフオーマンス
 ニユーヨークメッツの新庄選手が今シーズン第1号ホームランを打った際、マウスガードを便用していることをコメントしていました。以前新庄選手の専属通訳をしていた友人に間いたところ、メジヤーリーグでは関心を持つ選手が増えているとのことでした。
 では、ゴルフのインパクトやテニスのサーブなど最大筋力を発揮する瞬間には、全ての人が噛みしめているのでしょうか?
 第66代横網若乃花は強く噛みしめすぎるあまり、奥歯が割れたことがあったそうです。野球では王さんがある雑誌に”現役のときにマウスガードの存在を知っていればもっとホームランが打てたかも知れない”とコメントしていました。しかし長島さんの場合、インパクトの瞬間は口が開いている写真ばかりです。
 現在の見解では最大筋力を発揮する瞬間に噛みしめている選手は約70%と言われています。当科におけるラグビー選手を対象とした筋力測定の実験においても同様の結果でした。
 つまり30%は装置を装着しても効果がないということになります。しかしながら口が開いている選手でも咀喰筋(咬む筋肉)や頚部の筋肉は必ず緊張していることがわかっています。
 またスポーッの種類や最大筋力を発揮するスピートやタイミングによつて違いがあるため、現在においても歯科領域のみならず各分野で研究がすすめられています。
 またガムを噛んでいる選手が多く見受けられるようになりました。以前に述べたサッカーの城選手は歯科医師にすすめられてガムを噛んでいました。これは頭頚部周囲の筋肉に軽い緊張を繰り返し与えることによって最大筋力を発揮する瞬間に素早く反応できる効果があります。
 今後あらゆるスポーツにおいてこのような光景が多くなるとおもわれます。
 次号は最終回として、実際にフィールドでケガをした場合の応急処置について説明します。
<5>受傷特の応患処置 北海道経済2003年11月号
●軟組織の損傷
 口腔内(舌、歯ぐき、ほっぺなど)から出血している場合はまず水道水で砂などを洗い流し、なるべく清潔なガーゼやタオルで強く圧追します。そのまま、すみやかに専門医(口腔外科)を受診してください。キズの大きさ、深さによっては縫合処置が必要になる場合があります。
●歯の破折
 歯片を直ちに見つけだし、歯科医院受診の際に持参してください。折れ方によりますが、再着できる場合があります。
●歯の脱臼、脱落
 まだ抜けずにグラグラしている状態(不完全脱臼)では速やかに歯科医院を受診し、なるべく元の位置に整復してもらう必要があります。脱落(完全脱白)した場合は症例により再植手術が可能な場合もあります。
 再植成功のポイントは歯根部をなるべく触れないこと、乾燥させないこと、再植までの時間が短いことが挙げられます。受診までの歯の保存方法は口腔内(ほっぺの内側)に挟めておくか、牛乳の中に入れるのが良いでしょう。
 また、歯の保存液(歯牙保存液ネオ/ネオ製薬工業社製、一定価3000円)も市販されておりますのでフィールドでの救急箱に常備しておくことをおすすめします。
●顔面骨骨折
噛み合わせのズレがあるなど、骨折が疑われる場合は痛みの少ない状態でアゴ、頭部をなるべく動かさないで直ちに搬送してください。
●おわりに
 わが国は、世界に冠たる長寿国となり健康増進のためのスポーッ愛好家が増加の一途をたどっております。またトッブアスリートにおいては己の限界に挑戦し、勝つために厳しいトレーニングを研鍍しています。健康医学の一つとして21世紀におけるスポーッ歯学の役割は非常に重要なものになると思われます。
 これまで6回にわたり「スポーッ歯学の最近の動向」について連載してきました。より安全に、より楽しくスポーッに参加できるように外傷や処置、安全対策についてお話してきましたが、少しでも参考になったとすれば幸いです。
旭川医科大学歯科口腔外科医師
中港誠幸くなかみなと のぶゆき〉
昭和47年6月28日生まれ、旭川市出身。
平成3年旭川北高卒、8年岩手医科大学歯学部卒、旭川医大歯科口腔外科学講座入局、9年大
西病院口腔外科勤務、10年旭川医大麻酔科研修、11年旭川赤十字病院口腔外科勤務、13年釧路労災病院口控外科勤務、15年旭川医大歯科口腔外科。
日木スポーツ歯科医学会所属。
中港先生のご厚意により転写させていただきました