第一大臼歯考える 

北海道医療大学小児歯科学講座教授 五十嵐清治

第一大臼歯考える(22)2001.3
(4)第一大臼歯のムシ歯予防
Eピット・アンド。フィッシャーシーラント=レジン編E=
前回に引き続き、もう少し接着歯学の歴史について述べさせて頂ぎます。
前回は、見た目の美しさ、本来の白さや透明感が要求される前歯のムシ歯の治療に多用されているコンポジットレジンの初期の接着歯学との関わりまで述べました。
その後の発展
矯正歯科で歯を動かすワイヤー(弾力線)を固定する装置(ブラケット)を直接歯に接着させる材料の開発の基になったトリn・ブチルボラン(TBB)の発見と臨床応用、コンポジットレジンの強化材(ガラス粉末などの無機質フクラー)とレジン基材との接合を固るカップリング剤(前号で解説)の開発、歯質とコンポジットレジンの接着を図るボンデイング剤(ライナーを含む)の出現へと発展しました。
接着歯学の中期から現在
その後の接着歯学の発達は目覚ましく、近年では歯科のほとんどの領域でこの技術が応用されています。
矯正歯学領域では第三世代ともなる接着材へと発展し、それまで金属のバンドを歯にセメントで合着していた治療技術が一変しました。またこの材料から発展して、金属と歯を強力に接着させる材料が開発されました(4METAレジンの出現。)
この接着材の出現により、歯科の治療技術は相当変革しました、歯周病(歯槽膿漏症)などによって動いている歯の固定、歯の削除量が少なく見た目も良い接着ブリッジの考案、口腔外科領城では骨析や歯の外傷の固定など、ムシ歯の予防や治療だけでなく、広い領域でこの接着技法が応用されるようになりました。
ここ数回、第一大臼歯のムシ歯予防のシーラント・レジン編から接着歯学の歴史について触れましたが、次回からは、厚生省や日本歯科医師会の対応に変化のみられたフッ素について解説したいと思います。
第一大臼歯考える(21)2000.9
(4)第一大臼歯のムシ歯予防
Eピット・アンド。フィッシャーシーラント=レジン編D=
前回は従来行われていた世科用修復物(冠やインレなど)のセメントによる合着機構と歯科用レジン(プラスチック)と歯質の接着機構(接着歯学の基本的技法〉について解説しました。
最初に出現したシーラント材は歯科用レジン(プラスチック)を瞬間接着剤で歯質に接着させたものでしたが、その直後に現在の接着技法の基本的技術である正リン酸による酸処理技法(酸エッチング法)が開発され、現在に引き継がれております。
その後約三十五年程にわたり、 エナメル質に接着する材料の検討、象牙質に接着する材料と技怯の検討など、世界中の多くの研究者が、歯科材料と歯質の接着について研究してきました。
そこで今回は、歯科における接着の歴史について触れてみたいと思います。
 接着歯学の歴史
一九五五年、 エナメル質表面を正リン酸で処理することにより、歯科用レジンが歯質に接着することが発見されました。
(Buonocore.M.G.) 一九六○年代に入ると東京医科歯科大学医用器材研究所有機材料部門の増原英一教授のグループがトリ・n・ブチルボラン〈TBB)という象牙質に接着する重合開始剤を発見しました。この物質は歯科用レジンであるメチルメタクリレート(MMA)の重合(硬化)に関与しており、この研究は数年後に日本発の第一号の製品として実用化されます(ダイレクト・ボンディング・システム DBS、後述)。
これと前後して一九六一年にボーエン(Bowen.R.L.)がコンポジットレジン(注1)用として開発したBis・GMA系のレジンが出現しました。
このレジンはコンポジットレジンのフィラー(ガラスなどの無機質)と歯質の両方に接着性を有するカップリング剤(注2)として合成されたものです。この材料は数年後に発表されたコンポジットレジン(3M社製コンサイス)のライナー(注3)として提供され、歯質とコンポジヅトレジンの接着力を増加させました。 (つづく)

注1 コンボジットレジン
 日本語訳は複合レジンといいますが、 レジン(プラス チック)の基材の強度を高め、重合(硬化)時の収縮 を減少など、種々の材料を混合することにより、より 良い性状を持つ材とすること。例えば建築用のセメン トに鉄骨や砂利・砂を混合して丈夫な鉄筋コンクリー トを造るようなもの。
注2 カップリング剤
 ニつ以上の系の材料(無機質と全属・ガラスとレジン など)を相互に作用させて結合させるもの、化学物質 による糊のようなもの。
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第一大臼歯考える(20)2000.1
(4)第一大臼歯のムシ歯予防
Eピット・アンド。フィッシャーシーラント=レジン編C=
前回は瞬間接着剤(液)であるエアル2シアーアクリレート歯科用レジンの粉末を混合したシーラント材(商品名パスレジン)について述べました。しかし、このシーラント材は、より強固な接着力を有する酸処理技法の出現により、姿を消してしまいました。
酸処理法による歯科接着技法の出現
一九五五年、プオノコア〈buonocore.M.G.)はエナメル質の表面を正リン酸で適当な時間脱灰すると、歯質のカルシウムが溶出してエナメル質の表面に微小な凹凸面の生じることに着目し、そこに流れの良い歯科用レジンを流し込む(低粘調性レジンの塗布)とレジンと歯質が強固に接着することを発見しました。
これが、歯科用レジンと歯質の接着第一号といえる研究です。冠やィンレーなど、従束の全ての鋳造修復物は、リン酸亜鉛セメントにより歯に取り付けられていました。しかしこのセメントには歯に化学的に接着する性能はありません。冠やインレーが説落せずに歯に付着しているのは図1に示すように、歯質と鋳造物の表面の徴小な凹凸の部分を含めて、その部分に介在したセメントが硬化した結果です(嵌合効力)。したがって、この付着を合着といい、接着とは区別されています。
酸処理による接着
エナメル質とレジンによる接着も結局はこの概念を応用したものですが、その接着力は強固で長期間効果期待できるもので、現在の接着歯学の根幹をなしている技術といえます。
正リン酸で歯表面を脱灰すると、エナメル小柱の周囲やコアの部分(中心)が脱灰されて、ミクロン単位(一ミクロンは干分のミリ)の凹凸面を生じます。ここに流れの良いレジンを流し込み(実際には筆や小スポンジにレジン液を含ませて塗布する)、硬化させると、レジンが歯質と強固に接着します(図2〉。
この研究が歯科用レジンと歯質の第一号の発表となります(つづく)。
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第一大臼歯考える(19)1999.9
(4)第一大臼歯のムシ歯予防
Eピット・アンド。フィッシャーシーラント=レジン編B=
シーラントの臨床第一号
前々回で少し触れましたが、ピット・アンド・フイッシャーシーラント(以下シーラントと略す)の臨床第号は日本です。
東京歯科大学口腔衛土学教室の竹内光春教授が、歯科用レジンの粉末(メチルメタクリリート=プラスチック)とエチル二シアノアクリレート(液剤=瞬間援着剤)の混和物で小窩裂構部を封鎮し、その臨床試験を発表したのがシーラントの最初です。(支献一・二)
シーラント材の第一号も日本発!
竹内教授が使用されたシーラント材の製品化されたものが商品名「パスレジン」として国内で発売されました。この論文によると、シーラント(填塞)後の九カ月間は裂溝部の封鎮性があり、さらにこの間の小窩製溝部のう蝕は完全に予防されたと報告しています。しかし、残念ながらこの製品は数年で姿を消してしまいました。私が歯科医になった一九七○年にはすでに市販されておらず、誠に残念な結果になりりました。
パスレジン姿を消す
このシーラント材が出現したにもががわらず、歯科界に受け人れられなかった最大の要因は、より確実で強固な接着性を発揮する接着技法とシーラント材が、一年後の一九六七年、ブオノコア(Buonocore M.G.)によって発表されたとです。(接着性レジンシーラントについては次回で詳述致します)。
瞬間接着剤であるシアノアクリレートは親水性で、長期間湿潤環境(水中や口腔内)におかれると吸水・膨潤し、接着力を失うことです。このためより強固な接着力を有するものへと歯科医の要望がシフトしたためです。一〜三カ月ごとの定期診査が確立している現在の小児歯科臨床では、バスレジンを受け入れられたかも知れません。(つづく)
文献
一 竹内:合成樹脂接着剤によるう蝕予防填塞法・口腔衛生学会誌一六巻一一五〜一六八・一九六六
二 竹内・他:合成樹脂によるう蝕予防填塞法の野外調査U・歯科学報六十六巻四七六〜四七七・一九六六
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